「見えない資産」経営と未来歴史づくり 「見えない資産」経営と未来歴史づくり
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「未来歴史づくり」は不滅の伝統
挑み続ける、その先に

岡部 では、最後に、これからのタマチ工業について、3人で深掘りをしていきたいと思います。いちばん大きなトピックとしては、新工場の建設がありますよね。なぜ新しい工場を建てることになったのですか?
米内 私たちはこれまで、そのときの身の丈に合う形で建物を足していきました。でも、いつも工場内がいっぱいになってしまうんです。機械が先に古くなれば、入れ替えをするだけでよいのですが、最近の機械は性能が優秀なので長持ちする。新たな機械を買う段階でも古い機械が捨てられなくて、自ずと機械が増えていくことになるんです。ウチには攻めの機械と守りの機械があるのですが、高度化するお客さんの要求に対応するためには、攻めの機械が必要不可欠。そうなると、土地を増やして建物も増やしていくしかないわけです。今回は、雑木林だった土地を購入し、造成して工場用地としました。
岡部 大がかりな新工場建設だったわけですね。
米内 はい。2015年あたりはモータースポーツ以外のものがこれからますます発展していこうという時期で、次世代の車の開発を始めたところ、すごく成功しました。でも、「ここからますます行けるぞ」というところで、その開発が終了しました。しかも、モータースポーツの仕事もエコ化、低コスト化が図られ、つくる量も少なくなってしまったんです。そんななかで次の仕事を考えたら、高級スポーツ車や、環境や震災といったところで使えそうな装置の開発試作の御話を頂戴しました。試作が順調に進み、中量産のニーズにつながってきたので、それができる工場ということで、新工場の建設を決意しました。
三冨 なるほど。
米内 新しい工場は少人数で中量産を可能にするプランなのですが、そういうニーズに我々もようやく応えられるようになってきたということです。逆に言うと、ここで生産させてみようというところまで真剣に考えてくださるお客さまが、顕在化してきたということです。
岡部 つまり、今まではごく一部の人しか使えなかったモノが、御社の製品としてより多くの人たちに使ってもらえるようになるということですよね。これは、ビジネスモデルも変わりますね。
米内 そうなんです。でも、ルーツをたどれば太田自動車で、もともとは量産の会社だったわけです。時代の流れで試作メーカーに変わっていきましたが、また、中量産の仕事ができるようになってきたということです。レーシングマシンの部品で技術を磨いて、太田自動車のときの量産に比べたら規模は小さいですけれど、再び量産していくことになったという流れですね。それをやってきた企業ということで、名指しされることも多くなってきました。
岡部 米内さんは、タマチ工業をどんな会社にしたいですか。
米内 モノづくりの変化というものを、社員は実感していると思うんです。ですから、まずは、その時代その時代でやっていくことが変わっていくのだということをきちんと理解し、対応できる社員を育てていきたいですね。
岡部 そのなかで、「見えない資産」経営をどのように活かしていくおつもりですか?
米内 人材で言えば、教育が大事。今、左上にいる人たちをどうやって伸ばしていくかが、自分としては最大の関心事です。そのまま平行移動させるのではなく、三冨さんが言うように、次の次元にもっていくことができる人たちを育てていかなければいけないと思っています。
岡部 三冨さんから見て、タマチ工業さんはどうですか?
3つの輪 3つの輪
三冨 これからは、「3つの輪」をうまく循環させていくことがすごく重要になってくると思います。そういうなかでいうと、今までは1から2のところをやってきていて、今は4、5になっているけれど、じつは、その4、5は次の時代の1になっている。今回の工場をつくるというのは、次の時代の2から3のところに対応するものなのではないかと思います。新陳代謝をきかせることが、やはり非常に重要。顧客の2軸のマッピングでいうと、左上にいる会社さんをどうやって右上にもっていくのかというのが、新しいビジネスモデルとして出てくるという流れになってくるんじゃないかと思いますね。人的資産で言うと、米内さんは、働いている人ひとりひとりの能力を大切にしながら、どうやってそういう人たちを成長させていくかという思いがすごく強いので、それが会社のドライバーとして、「3つの輪」の1から2、2から3に進むと、さらに進化してくるんじゃないかと思います。そうすると、タマチに合っている人は働きやすくなるという要素が、たくさんできてくる。それを、さらに醸成させていくと面白いと思います。そのひとつの萌芽が、タマチで育った人が大企業に抜かれていくという現実じゃないかと思うんです。米内さんはそれを、「畜生、悔しい」と思っているけれどね(笑)。
米内 10年前に入った社員が家庭を持ったりしていろいろと考え方が変わり、タマチのなかでこれからというときに大企業に抜かれちゃう。「戦力になったのに冗談じゃない」という気持ちにもなりますよ。
三冨 でも、それは今まではありえなかったことなんですよ。大企業から中小企業に来る人はいても、中小企業から大企業に行くことはなかったと思う。でも、タマチ工業はそれができる会社になってきている。だからこそ、これをさらに醸成させていくともっと面白くなるんじゃないかと思うんです。これには2つの理由があってね。上の象限だと思っていた人も、じつは下の象限だったということもあるかもしれないでしょう。その人が「戻ってきたい」と言ってきたら、社員じゃなくて外部委託のような形でも関係性を持っていったらいいと思うからです。もうひとつは、上の象限の人であれば、他の会社に行って学び、タマチの良さを分かって戻ってくるかもしれないからです。そうしたら、その人たちを戻すことでタマチの文化をさらに醸成させることができる。それは、将来の礎になるんじゃないかなと思うんですよ。それを5年、10年、20年醸成させていくと、米内さんがやりたいことができてくる。その裏側に、「3つの輪」が表裏一体となって常に成り立っている。時代の最先端ですよ。
米内 太田会長が、かねがね言っていた武士道。私は「挑戦し続ける気持ち」や「相手に何かされたときに嫌な思いをしたんだったらそれを次に自分はやらないという心がけ」、「会社のなかでミスを犯してもどこかに逃げ道をつくっておいてあげること」が大事だと思っています。それでつぶされる人間も、たくさんいますからね。そういうことがないように、人を育てていきたいと思っています。それは、武士道につながるところだと思っています。
岡部 それは、米内さん自身が共感されているから、引き継がれているということですよね。変えない企業文化のひとつ。
米内 そうですね。太田さんから武士道を受け継ぐときに、ピンチもあったわけですよ。でも、すごく細い道でしたけれど、太田さんは私に逃げ道を与えてくれました。太田さんから引き継いだ「未来歴史づくり」を進めるために、私はバリュークリエイトを使い倒します(笑)。
三冨 米内さんの取引先の2軸マッピングの右45度にバリュークリエイトをもっていき、ウチが持っているポテンシャルを最大限に引き出すということですね。受けて立ちましょう(笑)。本日は、どうもありがとうございました。

Profile Profile

タマチ工業 代表取締役社長 米内 淨 タマチ工業 代表取締役社長 米内 淨 タマチ工業 代表取締役社長 米内 淨

2014年、タマチ工業株式会社の代表取締役社長に就任。
未来歴史実践のため、新工場開発にも着手。
若手経営者・経営後継者向け講座 城南信用金庫“未来塾”一期生。

バリュークリエイト 代表取締役 三冨 正博 バリュークリエイト 代表取締役 三冨 正博 バリュークリエイト 代表取締役 三冨 正博

2001年、株式会社バリュークリエイトを設立。
企業の規模・業種を問わず、経営者に企業価値創造の視点を提供。
現在、慶應義塾大学大学院経営管理研究科非常勤講師及び株式会社SUMCO社外取締役。

バリュークリエイト 代表取締役 岡部 哲也 バリュークリエイト 代表取締役 岡部 哲也 バリュークリエイト 代表取締役 岡部 哲也

2009年よりバリュークリエイトパートナーに。
企業文化をベースとしたコーポレートブランディングが専門。
現在、武蔵野美術大学デザイン情報学科非常勤講師。

本記事は2019年12月に行った鼎談をまとめたものです

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